「二度と電話してくんな!!!」
サプライヤーとの電話のやり取りです。
バイヤーであるわたしは、サプライヤさんに製品を納入いただき、対価としてお金を
支払う立場になります。
こだわりのラーメン屋さんが、気に入らないお客様に毒吐くシーン。
「二度と来るんじゃねえ!」
こだわりはわかるけど、客に向かってそんな言い方・・・って思いますね。
あれです。
通常あり得ないこの罵倒は、今最も信頼のおけるサプライヤさんの1社である社長に
言われた一言です。
21歳の時、バイヤーとして駆け出しの状態で、仕事の進め方もままならない頃でした。
発注の権限など当然無く、一つ一つの製品に対して上司の判断を仰ぎ、サプライヤさんに発注させていただく日々でした。
サプライヤさんから見積をいただき、懇々と上司に指導される日々でしたが、
製作するためには、少々特殊な設備が必要となる製品を発注することとなりました。
しかもお客様の要求もあって、通常3週間は掛かると言われる製品を、
約1週間で完成させる、非常に短納期でもありました。
当時そのサプライヤさんの特色は、関西に位置し土地柄もあってか、
多数の企業の間を繋いで、複数の工程を跨いで製品を作り上げる。
そんなスタイルでした。
その高難度の製品発注に私は、そのスタイルが合致する考えのもと、
製作を依頼しました。
社長の第一回答は、
・新しく治具を作らなければならないこと。
・設備も限定され、コスト的にも相当な金額になる可能性が高い。
お断りに等しい連絡でした。
ですが、納期は迫る一方、これから他社に当たる猶予も残されておらず、
何とか製作を進めて欲しいと繰り返し、しぶしぶ社長も了解してくれました。
そこからは毎日、数時間に1度は電話で状況を聞き取りしながら、納期に向けて、
社長にお願いするという動きを繰り返し行いました。
結果的に、そのサプライヤさんは、多数の企業間をほとんどハンドキャリーで
回しながら、納期に向けて対応いただいてました。
その多大な努力をいただいたおかげで、当初無理だろうと意見もあった中、
何とか納期に間に合う目途が立てることが出来たのでした。
しかし、、、
ハンドキャリーや、複数の企業が目の前の仕事を止めて、
イレギュラーな動きをしていただいたこともあり、お見積りをいただいた時には、
想定を遥かに超える金額となっていました。
毎日電話していたこともあって、その社長の動きを知っていた私は、
なんとかその見積金額を上司に承認してもらうべく、どんな理由があって、
ここに至ったか、説明を繰り返すのですが、
「こんな金額は論外。お願いしてコスト協力してもらえ」
淡々とした口調で、私にそう告げました。
わたしの拙い説明力で、その上司を説得出来る訳も無く。
翌日を納期に控えたその日、社長から電話がありました。
「ギリギリなったけど、なんとか出来たで!これであんたの顔を少しは立つやろ!
よかったな~ははは!」
「ありがとうございます!でも、ほんとにごめん!実はどうしても予算の兼ね合いがあって、コスト相談だけさせて!」
付き合いの浅いわたしに、そんな軽口きけるわけもなく、
無理矢理に納期のお願いをしたあげく、今後は、コストの相談を始めるのでした。
「高くなるって最初に言うたやん!
あんだけ人のこと、振り回しといて何を言うてんねん!
あんたのおかげで、うちの社内めちゃくちゃなっとんやで!
そんなこと言うんならもうええわ!いくらでもええ!10円でもつけとけや!
ただな!納品止めたるからな!
二度と電話してくんな!!!
ガヂャッ!!」
切られた電話を片手に茫然としました。
ただ、
サプライヤさんを何故こんなにも怒らせたのか。
納期を守るには、今日必ず出荷してもらわなければいけない。
上司に何て言えば・・・・
でも、、、もう電話する勇気も、上司に報告する気力も、これっぽっちも残ってない。
茫然としたまま数分後、
サプライヤさんの番号で、コールされました。
番頭さんからでした。
「今日ちゃんと出荷するから。安心してね。頑張り。ほなまたね。」
とても短い電話でした。
ただ電話を置いた瞬間、涙が溢れてきました。
製作を進めていただくということは、注文書を発行するということ。
注文書を発行する段階では、当然予算があって、金額を互いに取り決めるということ。
そして、どんな製品であろうと、自分の注文によって大勢の方が関わり、
汗をかいて完成させるために労力を割いているということ。
こんな当たり前のことを放り投げてわたしは、差し迫る納期のことだけを考えていました。
この一件からわたしの中で、「親会社としてサプライヤに注文してやっている。」
なんて勘違いは消え去りました。
ただそれと引き換えに、サプライヤさんに強く言えないバイヤーとしての
苦労も多く味わうのでした。